はじめに

このブログを執筆する理由と目標

「個人メドレーを見たかい? これ面白いね。最後まで誰が勝つかわからないんだ」
リビングでシャツにアイロンをかけながら興奮した顔を私に向けるジョン。警察官の彼にとって、朝のアイロン掛けは早番でない日の習慣だ。リビングのテレビは水泳競技を映している。あれ? 数日前までパラリンピックは面白さがわからないって言ってなかったっけ? そんなシニカルな言葉はもちろん口にせず、私はにっこり笑ってうなずいた。「そう、面白いよね」

2012年8月の終わりから9月の半ば。ちょうどパラリンピック開催期間をすっぽりとかぶせる形で、私はたまたまイギリスにいました。それもスカンソープ(Scunthorpe)という田舎の町です。毎朝、メアリーとジョージの家に足を運ぶと、すでにテレビがさまざまな競技を映し出していました。「おはよう。調子はどう?」「ああ、まあまあだね」という会話を交わした後(80歳を過ぎた二人には「調子がよい」日はほとんどなかったので)、リビングのソファーに腰を下ろし、テレビ観戦に加わります。「おお」だの「わあ」だのそれぞれに嘆声をもらしながら、熱心に観ていました。ほとんど一日中。

この夏イギリスに行く、と周りに言うと、返ってくる言葉は「オリンピック観に行くの?」。それに対して「オリンピックは終わっているからパラリンピックね」と口にしたものの、本気でパラリンピックを見るようになるとは思っていませんでした。今までパラリンピックを見たことはほとんどなく、せっかく中継するのだから見ておこうか、それくらいの気持ちでした。

いざ開会すると、これが本当に面白い。最初は水泳のレースが多かったのですが、一口に水泳といっても、S1~15までのクラス分けがあり、同じクラスでも持っている障害はさまざま。非常に複雑なシステムが構築されていて、それを学びながらの観戦です。冒頭で触れた個人メドレーは、障害によって種目の得意不得意が異なるため、平泳ぎまで後ろの方にいた選手が自由形で突如追い上げることもあり、最後まで目が離せませんでした。
陸上もT34、T35などやはりクラス分けでレースが行われ、義足を片方または両方付けた選手が並びます。

その走る姿は、かっこいい。

車椅子を駆動するたくましい上半身も、片足で走り高跳びを成し遂げる姿も、どの競技でも選手の姿はかっこよかった。そしてレース後に選手が見せる笑顔。勝っても負けても誇りに満ちたその笑顔は、私の心を震わせました。後日、スタジアム観戦した友人に会うと、「歓声がものすごい音だったわ」と今でもその音が聞こえるかのように耳を覆いながら話してくれました。

とにかく盛り上がって、250万枚という驚異のチケットセールスとなったロンドンパラリンピック。でもイギリス人も開催前からパラリンピックについてよく知っている人が多かったわけではないと思います。冒頭のジョンがその例です。ちょうどパラリンピックが始まったころ、彼はパブで友人たちに「パラリンピックは何が面白いんだろう」と語り、それに答えられる友人はいませんでした。チャンネル4が連日朝から晩まで放映し、イギリス人選手がメダルを獲得していくことで、徐々に盛り上がりを見せ、それに伴って興味をもつ人が増えていった、というのが現地での実感です。

こんなにかっこよくて面白いものを知らないのはもったいない。これが私がブログを始めようと思った理由です。私自身、何も知らないところからのスタートになります。ですが、私がパラリンピックに興味をもつようになったこの思いが他の人に届き、日本でもパラリンピックが盛り上がるようになるといいなと思っています。それはおそらく、社会のバリアフリーとも密接に関わることでしょう。パラリンピックのみならず、障害者スポーツが日常の話題に上る日を目指して。

海外と日本の最新情報を紹介しつつ、それぞれの競技や選手に対する理解を深めていきたいと思います。みなさんの心に届きますように。

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